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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二十六回 『光暴大師』 [フィクション]

『何か、少しでも手掛かりはあるのですか?』
鴨野は、そう尋ねた。
『あるのは口伝だけです、それも大雑把なもので、詳しいことは何一つ分からないのですよ。』
仙兵衛は、淡々とした口調でそう答える。
『その大雑把(おおざっぱ)なものだけでも、教えて頂けませんか?・・・』

鴨野は、そう催促した。
仙兵衛は、こっくりと頷いて、こう話し始めた。
山奧屋率いる切支丹残党軍が、スペイン軍に敗れたのは、海沿いの街であったと言うことである。
スペイン軍には、上半身裸のオカマの部隊がいた。
山奧屋達一団は、その半裸身のオカマ部隊に敗れたのである。

半裸のオカマ、爆裸(ばくら)に敗れた乱だから、その地は、爆裸乱(バクラーラン)と呼ばれるようになったが、当節は、酌婦が沢山いる娼館が沢山出来て大変賑やかだ。
爆裸乱の一角には、スペイン様式の小さな教会があって、山奧屋鶴兵衛は、その教会の敷地内に黄金を埋めたらしいのだが、その教会が、今でも現存しているのかどうかは定かではないと言う。
見取り図なども存在せず、これでは、全く手掛かりが無いに等しい。

流石に仙兵衛も、危険を犯してまでも、手を付けるわけにはいかなかったと言う訳である。
仙兵衛は、そこまで言うと、オスカルスペイン提督と、正式に発掘の提携を結びたいと云う。
こうなれば、リスクは百でも承知でも、一世一代の、大博打を張ろうというのである。
鴨野は、そこまで聞くと快諾した。
『私が、責任をもって負いますよ・・・!』

『ああ有り難い、早速このことを、庭に祀(まつ)ってある、祠様(ほこらさま)に報告致しましょう!』
仙兵衛は、にこやかな笑顔でそう言った。
『ほほう、その祠様(ほこらさま)とは?』
鴨野は、怪訝そうな顔をしながらそう尋ねた。
『ああ・・・』

山奧屋は、今気がついたようにこう答えた。
『祠様とは、我が家、先祖代々の守り神なのですわ!』
『ほほう、御尊家(ごそんけ)の代々の、守り神を祀(まつ)られているのですか?』
鴨野は、感心してそう言った。
『ははははは、私も古い人間でしてなあ、そういう守り神を、拝まずには居られません!』

仙兵衛は、照れながらもそう云う。
『いやいや、それこそが真(まこと)の先祖供養と言うもの・・・で、どなた様をお祀りなので?』
鴨野が、不思議そうな顔をしながら聞いた。
『ほほほほほ、初代山奧屋鶴兵衛は、御存知の通り、浪速の商人であり、切支丹でもありましたが、それ以前の御先祖様は、熱心な真言宗の信者でも御座りました。

『なるほど、遠い祖先は真言宗で御座ったか?』
鴨野は云う。
はい、私どもの先祖は、中でも真言宗の宗祖、弘法大師様の七番弟子であられた、使僧、萌萌(もいもい)こと、後の光暴大師様(こうぼうだいしさま)の御教(みおし)えに傾倒しておりました!』
『ううむ、かの光暴大師様とな・・・』

鴨野は、その名前を知らなかったが、そう言うと失礼にあたると思い、あたかも知っている振りをして、体裁(ていさい)を繕(つくろ)いながらそう答えた。
『左様、光暴大師様・・・』
仙兵衛も、そう言って高笑いをした。
『あはははははははは』、鴨野も笑った!


ガハハハハ、続く・・・・・(爆)!


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二十五回 『黄金の在処!』 [フィクション]

鴨野達一行は、仙兵衛の言葉に強い衝撃を受けた。
黄金を求めて、遥々日本から呂宋国くんだりまで来たと云うのに、これでは何も意味をなさない。
山奧屋が嘘をついているとも考えられなくも無かったが、その人柄を見る限り、嘘ではあるまい。
鴨野は、途方にくれながらも、自分達が、幕府とスペイン提督の両方から頼まれたことを正直に打ち明けた上で、こう尋ねた。

『では、黄金は一体何処にあるのでしょう・・・?』
所有権は彼らに有ると知りながらも、鴨野は役目柄、そう聞かずには居られない。
『黄金は、ここには御座らぬ、しかしこの呂宋国内には、確かにあります。』
『ほほう、そ、それは誠に御座るか?』
鴨野は、失いかけた希望に、再び火が点じられるのを感じながらそう言った。

『実は・・・』
山奧屋仙兵衛は、そこまで言い掛けて突然止めた。
『鴨野様、ここではこの話は出来ませぬ、二人だけで茶室の方へ参りませぬか?、これ茶露や、御前はお客人を案内せい。』
そう言うと、仙兵衛はさっさと立ち上がり、先に茶室の方へ消えて行った。

その後で茶露が案内に立ち、鴨野はそれに従ったが、後の人々は残された。
その残された人の中で、すくっと立ち上がって、どこかに行こうとした人物がいる。
萬久こと菩薩であった。
『待たれよ萬久殿!』
萬久が立ち去ろうとした瞬間、松五郎が声を掛けた。

『どこへ行かれる?』
『か、厠で御座る。』
『じゃあ、私も一緒に行きましょう・・・』
松五郎も立ち上がり、二人とも外に有る厠に向かった。
萬久は恐らく、鴨野達の話を盗み聴きしようとしたに違いない。

松五郎は、それを悟って、一緒について行くと言い出したのだ。
これでは、菩薩の動きは封殺されてしまうであろう。
一方鴨野は、茶室の中で仙兵衛が点てた茶を嗜みながら、彼の話を待った。
黄金は確かにあるが、ここにはなく、他にあるという。
仙兵衛は、おもむろに、こう話を再開した。

初代山奧屋鶴兵衛は、黄金を持ったまま安泰幌に隠れ逃れたのではなく、オスカルスペインの祖先ラスカル提督と戦って敗れたときに、その敗れた地に黄金だけを埋めて、箱には石を詰め込み、いかにも黄金を持ったまま逃走したように見せかけたらしい。
その秘密は、ごく一部の腹心しか知らず、今ではその事実を知るものは、世襲で山奧屋を継いだ仙兵衛だけになってしまった。

万が一捕まったときに、スペイン軍の目をごまかすためだったとは云え、捕まらずにまんまと逃げおおせた鶴兵衛は、そのことを後で後悔して、何度か奪還作戦を立てようとしたが、スペイン軍の監視が厳しくて、果たすことが出来ずに、そのまま他界してしまった。
もっともその事実は、文章には残らず、口伝で、山奧屋のみ世襲に受け継がれたが、仙兵衛の代になって話が外に漏れ、山の仲間からも探索に行くべきだと言う声が、出始めたのだそうである。

最近では世代交代もあって、ますますそのような声が高くなり、躊躇する仙兵衛を、公然として非難する輩(やから)も現れたらしい。
そういう時に、登場して呉れたのが鴨野達である。
聞けば、今のスペイン提督であるオスカルにも頼まれて来たとのこと。
これを機会に、何とか探し出して掘り出せないか、山奧屋仙兵衛の、深刻な願いでもあった。


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二十四回 『山中の暮らし』 [フィクション]

読者諸氏も知りたいであろうから、ここは仙兵衛に代わり、著者が説明しておこう。
安泰幌に隠れた山奧屋鶴兵衛達総勢45名は、鶴兵衛の屋敷を中心に、日本人村を形成した。
伴天連の落ち武者の中には、絵師あがりや大工上がりが混じっていたので、これは容易であった。
先に菩薩と萬久に捕らえられた男などは、伊賀の忍者くずれで、鶴兵衛が、山を警護するために軍団を組んだ際に、棟梁になった男の子孫であった。

その他に、田や畑を耕し食物を供給する台所方、建物普請などを請け負う作事方など、様々な職掌が世襲で引き継がれていたのである。
彼らはいずれも現地の妻を娶り、仲間内での婚儀を建前にしてきたが、その後、近親交配の弊害なども見られたため、麓まで降りて行って、生娘を掻っ攫ってくる場合もあったらしい。
その為に、山賊が出ると言う噂も立ったのだが、これが幸いして、山に近づくものもいなかった。

山奧屋仙兵衛は、代々の頭目であり、彼で七代目に当たるらしい。
徳川将軍が当代で15代になるというのに、彼の一族は長命だと言って良かろう。
安泰幌の新鮮な空気を吸っていれば、必然的に寿命も伸びると思われる。
村には、厳密な掟が存在した。
しかし、これを破るものも、今まではいなかった。

先程の世襲制度も勿論だが、教育制度も充実して居り、ある一定年齢に達するまでは、教育は、村が運営する施設の中で、学ぶことが義務付けられていた。
彼らが日本語に堪能なのも、無理からぬことである。
こうやって彼らは、260有余年と言う月日を、無事に過ごして来ることが出来たのである。
仙兵衛はここまで一気に話すと、今度は逆に、日本の今の現状を聞きたがった。

当然であろう。
歴史の上での彼らの知識は、豊臣の世で止まっているのだ。
当然、徳川幕府による江戸開府の話も知らないであろうし、その幕府も最早、崩壊の寸前を迎えていようなどとは、夢にも思わないことであろう。
鴨野は、出来るだけ仙兵衛の意に沿うように、豊臣家滅亡から現在に到るまでの歴史を語った。

聞き終わると、何故か仙兵衛は溜息をついた。
『おや、どうしなさった、溜息などとは・・・』
鴨野は、不思議に思いそう尋ねた。
『いやいやお恥ずかしい、では、これを年寄りの繰り言と思って聞いて下されい・・・。』
仙兵衛はそう言うと、こう語り始めたのである。

三百年近くも山中に生きてきたが、最近では秩序も顕著に落ちてきて、若輩のやからなどは、時々山を降りて、華陰多(カインタ)と言う土地に新しく出来た遊興所に、通う者までが現れる始末だ。
仙兵衛とても、山中の暮らしには少々飽きがきたようで、たまには下界を覗いて見たくもあるし、祖国である日本へ行ってみたい気持ちもあった。
若いものを押さえて行くのにも限度もあろうし、これからの自分の道も見直したい。

そうなると、下山をしなくてはならないが、スペイン軍との摩擦も困るし、道中のお金もない。
それやこれやで、溜息が出てしまったと言う訳であった。
鴨野はそこまで聞くと、驚いて口を挟んだ。
『山奧屋殿、その話少しお待ち下されよ。』
鴨野は、話がおかしくなったので、普請な面持ちでこう尋ねた。

『率直に申し上げますが、先程、我々がここに来た目的の察しがつくと仰せられたが、ではあの黄金のことであろうということは、お分かりでいらっしゃったのですな?』
『はい、左様で・・・』
『では、あの黄金があれば、道中の路銀など、如何様にもなりましょうに・・・.』
『ああ、黄金の在処(ありか)で御座るか、あれはここには御座りませぬ。』


衝撃の次回に続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二十三回 『桃源郷』 [フィクション]

鴨野は、老人が消えた方向に駆け寄っていった。
すると驚いたことに、瀧の裏側から声が聞こえた。
『どうなされた、早く来なされ!』
鴨野は、目を凝らした。
よく見ると、瀧の裏側に側道があって、洞窟に繋がっているではないか?

鴨野は、その側道を通り、洞窟の中に入って行くことにした。
洞窟は、暫く歩くと何と奥が広まって居り、そこに、いきなり立派な門構えの、大きな屋敷が現れた。
まるで、唐の国のおとぎ話に出てくる、桃源郷のような光景がそこにある。
『ささ、こちらにおいでなされ・・・』
先程の老人が、門の中から手招きで呼んでいた。

鴨野も、その後に続く人々も皆それに従った。
中に入ると、そこは全くの日本の屋敷である。
安土桃山様式で、襖絵などは、狩野派の絵師が書いたと思われる、松や孔雀が描かれている。
鴨野達は、それらを目を見張って見ていたが、次第に、うっとりとしながら眺めるようになっていた。
『こ、これは素晴らしゅう御座る、ご老人、ここは、あなた様のお屋敷で御座いますかな?』

鴨野は、言葉と態度を改めてそう言った。
『ははは、お恥ずかしゅう御座いまする、いやいや申し遅れました、私はここ安泰幌の山中に隠れ棲む、山奧屋仙兵衛と申す者に御座いまする。』
山奧屋仙兵衛と名乗ったその老人は、室町作法に則った礼式で、慇懃に挨拶をした。
鴨野も慌てて答礼したが、人品卑しからぬその老人に、おっとりした中にも威圧感を感じていた。

老人は、いや訂正しておこう、人品卑しからぬその人物は、年の頃は鴨野と同じ還暦を過ぎたばかりのようだが、そのおっとりとした言葉使いや物腰など、何処から見ても只者とも思われなかった。
如何にも老成した風魂から老人に見紛うたが、髪はまだ黒ぐろとしていて若々しい。
作者は、ここまで書いてこう思った。
(これだけ持ち上げて置けば、今度訪問した時に、物凄い歓待があるに違いない・・・)

鴨野は、今こそ確信した。
この人物こそ、豊臣秀吉の迫害から馬尼羅に逃れてきた後、スペイン軍と戦って破れ、黄金を持って安泰幌に隠れ逃れたと言う 切支丹残党の首領、山奧屋鶴兵衛の子孫に違いないと言うことを。
鴨野がそのことを指摘すると仙兵衛は、『おーほっほっほ』、と笑うだけで、何も答えなかった。
肯定をする訳でも、否定をする訳でもない。

その時、一人の女性が茶道具を抱えて入ってきた。
『義妹の茶露(ちゃろ)に御座る。』
茶露と呼ばれた女性は、丁寧に鴨野達にお辞儀をした。
小柄だが、聡明な目つきをした、綺麗というより可愛らしい顔の女性である。
『ほう義妹殿で御座ったか?、して奥方殿は?』

鴨野がそう聞くと、生まれてまだ数ヶ月しか経たない子供の世話に疲れて、少々寝不足に襲われているので、自室で休んでいるらしい。
『さて、皆さんがここにおいでの理由は、大体想像が付き申しますが、どうして私達が日本語を喋り、日本の風俗をしているのか、少なからず、そのことに興味をお持ちのようですな・・・。』
仙兵衛は、一同を眺めるかのように首を回しながら、そう言った。

『その通りです。』
鴨野が、代表して頷いた。
皆もそうだそうだと、口々にさざめいた。
『では、お話申すことに致しましょう・・・。』
仙兵衛のその一言に、皆聞き耳を立てた。


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二十二回 『謎の老人!』 [フィクション]

『こ、殺せ!』
捕らわれた男がそう叫んだ。
驚いたことに、日本語でである。
鴨野は、吃驚してその男に尋ねた。
『そなたは、日本語が喋れるのか?』

『そういうお前たちは何者だ?、何処から来た?』
『それは、わしたちが問い質したいことじゃ、一体そなたこそ何者なのじゃ?』
鴨野は、威厳を持ってそう尋ねたが、男は、『ふん!』と言ったきり、押し黙ってしまった。
『強情な奴だ、いっそのこと拷問して、無理やり吐かせてやりましょうか?』
起きてきて、話を一緒に聞いていた、元奉行所与力の、大橋虎造がそう言った。

『いかんいかん、無理は決していかん。』
鴨野は、そう言って大橋をとめた。
『でも鴨野さん、こ奴を吐かせないと、これから先、どういう危険が待っているのか分かりませんぜ。』
大橋が、珍しく食い下がった。
『むむっ、し、しかしなあ・・・』

鴨野がどうしたものかと悩んでいる時に、その周辺から、わらわらと人影が集まってきた。
総勢、十数名はいよう。
思わず、皆緊張して身構えた。
捕らわれた男の、仲間達に相違なかったからである。
松五郎は、男の首根っこに突きつけた刃物を立てて、人質に取る構えをした。

『お待ち下され・・・』
闇の中から、声が聞こえた。
集まってきた人々の後ろから、一人の老人が現れた。
老人と言っても、それ程の年でもない。
おっとりとした声で、鴨野達に話し掛けてきた。

『お願いです、その男を離して下さらんか?』
岩に染み入るような声である。
鴨野は我を忘れ、その声の持ち主に惹きいられた。
『離せと仰せあるが、先ずは理由を聞かせて頂けませぬか?それと我々に危害を加えないとも・・・』
鴨野は、精一杯取り繕ってそう言った。

『御不審はごもっともです、でもここで話は何ですから、わしの屋敷においで下さらんか?』
『ご老人の屋敷へですと?』
鴨野は、自分も還暦を過ぎた老人にも拘らず、同年代と見られる相手に対してそう言ってしまった。
それ程相手が、神秘的に見えたに相違ないのだが、一体この男の正体は何者なのか?
取り敢えず不審が解けるまで、捕らえた男を人質にして、一行は、老人の後について行くことにした。

最早明けがたも近く、薄明かりの中、老人とその仲間について、一行は腰を上げた。
一刻近くも歩いたであろうか、山の上に出るとそこに瀧が見えた。
『さあ、あそこがわしの屋敷です。』
その男が、瀧を指さした。
『な、何とあの瀧がご老人の屋敷ですか?』

鴨野が驚いてそう尋ねた。
『ほほほ、そう驚かれるのも無理はない、まあ近くへ寄って御覧じろ・・・』
老人はそう言うと、瀧の方へ向かい歩いて行き、そこで消えた。
鴨野は、目を疑った。
老人は、何処へ消えてしまったのだろうか?


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二十一回 『曲者参上!』 [フィクション]

赤蟻の大群には、本当に悩まされた。
どんなに噛まれようが、平気で寝ているのは、虎造くらいのものである。
見かねた萬久が松明に火を付け、その赤蟻を焼き払ったので、ようやく落ち着いて寝られることになったが、蚊に刺されたり蟻に噛まれた後が痛痒く、松五郎が調合した伊賀秘伝の痒み止めを塗って貰って、ようやくこの騒ぎが収まった。

翌朝、一行は元気よく出発したが、昼前に来て異変が起こった。
こう平が、酷い熱を出して倒れたのだ。
良庵の見立てでは、蟻に噛まれた毒で足の傷が化膿し、そこからの熱であろうということである。
良庵は、熱冷ましと化膿止めの薬を調合し、症状が少し改善したが、直ぐには歩ける状態ではない。
これでは、旅は続けられそうにはなかった。

幸いにも、まだ麓に近い段階で有る。
仕方が無いので、鴨野は弁当にある程度の食料を渡し、熱が下がり次第、二人に下山するように促して、麓の宿屋で待つように指示をした。
こうして、こう平弁当夫婦が脱落して行ったが、道はまだまだ険しく、本当に山の上に辿り着くことができるのかどうか、一行は、特に鴨野は、不安で仕方が無かった。

その日も暮れて、またその次の日が来た。
道程は決して平坦ではなく、地図もない旅なので、自分達が、一体何処にいるのかさえ分からない。
道案内の阿鸞でさえ知らないのだから、頼りは、菩薩が扮した萬久の勘ばかりである。
その偽萬久は、相も変わらず沈着冷静で、テキパキと道を進めて行く。
忍者なので当たり前なのだが、流石の鴨野も、ここに来ておかしいと思い始めた。

以前のように無駄口も叩かないし、国に残してきた奥さんや、生まれたばかりの赤ん坊の話に水を向けても、一向に、乗ってこようとはしなかった。
しかし、疑念を抱いたにしても、あからさまに問い質すわけにもいかない。
今は自分達の為に、一生懸命やってくれているのだ。
もっとも菩薩にすれば、黄金のありかを探るために、上辺だけ協力しているに過ぎないのだが・・・。

その日の夜、一行は場所を決めて、そこで野宿をしていた。
全くもって静かな夜で、平和な安眠を貪(むさぼ)り続けた一行で有る。
が、しかし、その時、闇の中を人影が走るのを、菩薩と松五郎は見逃さなかった。
素早く、跳ね上がるように起きると、二人は同時にその影に向かって飛び掛っていった。
『曲者!』

伊賀と甲賀の忍者が同じくして叫ぶと、その影は、『おのれ!』と二人の方に向き返り、分銅のついた鎖鎌のようなものを投げ掛けた。
はっと避ける、菩薩と松五郎。
と、同時に、投網を菩薩が投げつけた。
投網は見事に、その影を捕らえた。

そこを刃物を持って、松五郎が取り押さえ、首元にそれを突きつけたからたまらない。
影は、ようやく大人しくなったのである。
騒ぎを聞きつけた鴨野が、松明を持って近づいてきた。
『一体、何の騒ぎじゃ?』
『ああ、鴨野様、曲者を取り押さえましたんで・・』

松五郎が、そう言った。
『何、曲者とな?』
鴨野は驚いて、松明をあてて、そこを照らし見た。
投網の中で、一人の男がうごめいている。
(一体この男は、何者なのか?)


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二十回 『苦難な道』 [フィクション]

萬久を先頭に、一座は獣道(けものみち)を歩み始めた。
途中、木の枝が倒れていたり、茨が生い茂っていたりと難所が沢山あるが、萬久は何事も無いような涼しい顔で、それらを踏み越えて道を進んで行く。
『ひいひいぜえぜえ、ひいひいぜえぜえ・・・』
そうする中で、一刻も経たない内に、まず良庵が悲鳴を上げた。

『こ、こりゃあいかん、わ、わしはもう限界じゃ、も、もう歩けぬ。。。』
良庵は、そういうとそこへ座り込んでしまった。
『せ、拙者もです、め、面目ない・・・。』
堰を切ったように、大橋もそう言ってへたり込んだ。
『お、おいらも~!』

とろ吉までもがそう言うので、鴨野は仕方なく、少し休憩時間を取ることにした。
『今年の目標は、3貫(約11kg)ほど痩せることじゃったが、中々、思い通りにはいきませんで・・・』
良庵が、汗を拭き拭き言い訳をした。
『お、おいらも痩せてえ・・・』
とろ吉も、息を弾ませながら、そう同意して頷(うなず)いている。

大橋は、大の字になって寝そべりながら、大声でこう叫んだ。
『馬~、酒持って来~い、こうなりゃ、景気付けに飲まないとやっとられんわあ・・・』
大橋は、困った時の酒頼みで、酒を飲むことで痛みを麻痺させて、ここを乗り切ろうと言うのである。
『大橋殿、めっ!』
流石に鴨野が、それだけは止めた。

大橋は、頭を掻いて笑っている。
小一時間ほど休むと、一行は再び、山登りを始めた。
しかしまた、少しの時間が経つと休憩を重ねるため、道中は、ちっともはかどらない。
鴨野は、段々と頭痛がしてきた。
道を掻き分けることたった数キロで、その日は暮れてしまったのである。

元より数日の野宿は覚悟していたものの、僅かな行程で、直ぐに野宿が始まるなどとは、さすがの鴨野も、想像が出来なかった。
この分では、用意してる食料も、早めに無くなってしまうかも知れない。
鴨野は、隊長として責任ある立場だけに、そのことに頭を痛めていたのだ。
しかし、この男たちのよく食うことと言ったらない。

特に、良庵、大橋、とろ吉の3名は特別だが、馬造やこう平、そして弁当までもが、一人前の男のように飯を平らげるのである。
(まったく、堪ったものではないな・・・)
鴨野は、ふうっとため息をついた。
(この作者は、やっと更新したと思ったら、この場面でまた引っ張るんだろうな、困ったもんよ。)

(バ、バレたか・・・)
作者は、思わず舌をだした。
ここで紙数を使ってしまわないと、後のストーリーを、全く考えていない作者である。
まあ、それは置いといて、食事が終ると早速寝ることにしたが、今度は違う問題が起こった。
凄まじい、藪蚊(やぶか)に襲われたのだ。

もう、痒くて痒くて溜まらない。
馬造などは、転げ回りながら、体中を掻きむしっている。
今度は、こう平が悲鳴を上げた。
何と、赤蟻の大群が襲ってきたのである。
こいつは強烈だあ・・・!


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第十九回 『獣道(けものみち)』 [フィクション]

弁当の戯言(たわごと)はさて置いといて、話を先に進めることにしよう。
一行は、次の日の早朝から、行動に移さなければならない。
勿論、マクシーの監視は免れないであろう。
上手く巻ければいいのだが、さもないと、黄金のことがバレたら大変な事になる。
本国に通報されでもしたら、オスカル提督は失脚、黄金も没収ということになりかねない。

誰にも増して、阿鸞は緊張していた。
次の日の朝も、誰よりも先に起きたぐらいだ。
そうして一行は、朝食を済ますと、安泰幌めがけて出発することにしたのである。
外は、快晴であった。
安泰幌からの吹き下ろしの風が心地よく、素晴らしい旅立ちの朝である。

阿鸞を先頭に鴨野隊長は、大橋、良庵、萬久、とろ吉、馬造、松五郎、こう平に弁当を従えて、いざ出立せんと、大号令を掛けた。
一行は意気揚々として出発したが、小一時間も経たない内に、難関にぶち当たった。
道を探そうにも、何と道が無いのであった。
途中で、途切れてしまっているのだ。

阿鸞は、『恐らく山賊が道を巧妙に隠してしまったのでしょう』と言う。
山への侵入者を防ぐために、山賊が道を隠してしまったと言うのだ。
この点から見ても、山賊が追い剥ぎや物取りを生業(なりわい)にしているのではなく、単なる侵入者を防ぐために存在しているとしか思えない。
鴨野は、阿鸞の話を聞いていただけに、そう確信した。

そうなると、推測が成り立つからである。
黄金を持った、山奧屋鶴兵衛を首領とした軍団は、秘境安泰幌に姿を隠した。
彼らは、ただ姿を隠すだけでなく、道路という道路を全て塞ぎ、兵を山中に拡散し、山賊に見せ掛けて、誰も近づけないようにしたに違いない。
要するに、ゲリラ部隊を作ったのであろう。

その後、二百数十年たった今でも、彼らは、山を守り続けていると思われる。
さてこの状態を、どう打開するのか?
取り敢えず、道を探すしかなさそうである。
やみくもに行動すれば、山の中で迷ってしまい、野垂れ死ぬ可能性もある。
『ここは、私にお任せを・・・』

萬久が手を挙げながら、そう言った。
『私は山の中の生まれでして、こういう時に、獣道を探すのは慣れて居ります。』
当然であろう。
萬久こと菩薩は、甲賀の里で生まれ育ったのだ。
道なき道を、狂いなく目的地に行くことなど、朝飯前に過ぎない。

鴨野は、萬久の提案を喜んだが、松五郎は、余計に疑惑を膨らませた。
(やはり、こいつは怪しい・・・)
伊賀の忍である松五郎も、伊賀山中で修行を積んだだけあって、山を登るくらいのことは他易い。
しかし、ここでは何も言わず、黙っていた。
萬久を、監視する為である。

監視されているとも知らない萬久は、何かを見立てていたが、ある方向に向けて手をかざした。
『こちらです。』
いとも簡単に、そう言った萬久である。
『ほほう、では皆の衆、参りましょうかのう。』
『はい!』、鴨野の言葉に、皆はそれに従った。


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第一八回 『阿鸞とマクシー!』 [フィクション]

『あ、安泰幌に呂宋焼きの名人がいると言うので、そ、その人物を探しに行くのです。』
阿鸞は、しどろもどろにそう答えた。
『何、安泰幌だと、あそこは危険だから、オスカル提督が、登山を禁止している場所ではないか?』
マクシーは、咎めるような口調でそう言った。
『ちゃ、ちゃんと提督の許可は頂いています、そ、その為に私も同行しているのですから・・・』

阿鸞は、必死になって弁明したが、マクシーは容易なことでは疑いを解くような男ではない。
『まあいいさ、嘘をついても何ればれることだ、せいぜい頑張って、山賊と戦ってくるんだな・・・』
マクシーは、捨てゼリフを吐いてそこを立ち去ったが、監視はこれからも続けるのであろう。
(全く、嫌な男に目を付けられたものだ・・・)
阿鸞は、前途に暗雲を見た心持ちになった。

元々、苦手なタイプの男である。
以前、職を辞して出家したのも、元はと言えばマクシーが原因であった。
阿鸞の昔の恋人は、同じ中華系フィリピン人で、素晴らしく美人で美脚の持ち主だった。
美脚に目のないマクシーは、彼女に目を付け口説いたが、恋人がいるからと断った。
マクシーはそれでも諦めきれず、色々な手立てを用いて彼女を落とそうと考えた。

危険を察知した彼女の父親は、彼女を中国の実家に帰してしまったのだ。
しかも、恋人である阿鸞にも、何も告げずにである。
悲観した阿鸞は、失意のあまり離職し出家したが、心の傷も少し癒えたので再びオスカルに仕えた。
以後は、今現在の通りである。
以来、阿鸞はマクシーには恨みさえ抱いていたと言っていい。

しかし、二年間の出家生活で、阿鸞は、恨みの心を少し和らげた。
こうして、会話が出来るようにまでなったのには、紆余曲折があってのことだ。
その話はいい。
鴨野は、食事中にも拘わらず、阿鸞が将校と揉めている様子なのを気にして、二人の話が終わると、すかさずその理由を訪ねることにした。

阿鸞の説明を聞いた鴨野は、暗澹たる気持ちになった。
(これからと言うときに、スペイン側から邪魔が入りそうなどとは・・・)
と考えて、少々憂鬱になった。
『気にすることはないですよ!』
話を聞いていた大橋が、口を出した。

宿が提供した、スペイン産ワインを大分飲んだとみえて、少々上機嫌ではある。
『そんなスペインのタコ野郎、拙者が蒲鉾にしてやりますよ。!』
いとも簡単に、そのようなことを言う。
『いやいや、兄貴が出るまでもねえ、おいらが埋めてやりまさあ・・・。』
とろ吉までもが、それに賛同した。

何事に置いても慎重な鴨野は、彼らの発言を頼もしくも思いつつも、窘めながらこう言った。
『いやいや、無理に事を荒立てる必要も御座るまい、ここはひとつ穏便に参りましょう。』
『あっ、それじゃあいい案があるよ!』
同じくワインを飲んで酔っ払っていた弁当が、いきなり口を挟んできた。
『なんだあおめえ、急によお、女の癖に・・・・・』、こう平が不安がってそう言う。

『まあ、あたいの話を聞きなよ、あのマクシーて男、大の美脚好きだってえ話じゃないの、だったらさあ、いざという時ゃあ、あたいのこの自慢の脚を見せつけてやってさあ、あいつの目が釘付けになっている隙に、ふん縛って転がしてやれば良いんでないの?』
弁当が陶酔した顔をしながら、大法螺を喋るのを聞いた大橋は、とてつもない大声で一喝した。
『べらぼう奴、おめえの出る幕じゃねえ、引っ込んで、おととい来やがれえ・・・』


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第十七回 『強敵登場!』 [フィクション]

萬久の取り出した火薬弾で、松五郎は、忍者としての誇りを取り戻した。
(もうちょいとで、お奉行様の信頼に傷を付ける所だったぜ。)
北町奉行、遠山金四郎の密偵であった自分を、やっと思い出した松五郎である。
調理人勝負で大橋に挑んだことを、今更ながらに恥じた。
(とにかく、萬久の野郎くせえぜ・・・、暫く見張っていよう。)

そう心に誓う、松五郎であった。
松五郎と同じく、萬久に疑問を持った人物がもう一人いる。
医師の、又場良庵であった。
医者と言うものは、人間を観察することには長けているものだ。
顔色や声色などを、常に観察する癖が付いている良庵は、萬久の変化に気づいていたのだ。

但し、憶測だけで、滅多なことは人に言えるものではない。
確かな証拠を掴んだ後で、鴨野に報告する積りでいる良庵である。
二人の人間から、監視されているとも知らない菩薩は、上手くごまかせたと胸を撫でおろした。
さしもの甲賀の手練忍者でも、自信過剰になれば脆いものだ。
忍者も人の子、自分の腕に自惚れたときに、敗北がやってくる。

一行は、それから二日の行程で、とうとう安泰幌の麓までやってきた。
弁当は、女ながらに達者な足で、夫のこう平が疲れた時には、背負ってやるくらいの強者だ。
但し、酒癖は非常に悪く、前回のウエルカムパーティーの時などは、大橋と大酒の飲み比べで酔いつぶれたので、こう平がおぶって宿舎まで運んで帰ろうとしたが、優男(やさおとこ)の力不足で適(かな)わず、見兼ねた大橋が、代わりに背負って宿まで運んでやったくらいである。

余談は置いといて、隊長である鴨野は、麓の宿屋で一晩を過ごすことに決めた。
まだ日は高かったが、これからの山越えはきつく、歩くにも時間が掛かりそうなので、まずここで、情報収集をするべきだと考えたのである。
この宿は、山を監視するスペイン提督軍の、高級士官なども良く利用するようで、結構な広さである。
中には、阿鸞と顔見知りの将校などもいて、互いに挨拶を交わしていた。

夕食は、階下の大食堂で全員一斉に取る事にしたが、その食事中、阿鸞の元に、一人の将校らしき人物が近づいてきてこう言った。
『おい阿鸞、大分羽振りがいいようだな・・・』
話し掛けてきた男は、人を睨め回すような目つきをしていて、いかにも抜け目が無く狡猾そうだ。
阿鸞は、その男を見ると、一瞬露骨に嫌な顔をしたが、直ぐに表情を変えてこう言った。

『これはこれは、マクシー殿、手前が羽振りがいいなどとは、とんでもありませんよ。』
『ふん、どうだかな、何でも提督に言いつけられて、この日本人達を、案内してるらしいじゃないか?』
マクシーと呼ばれた男は、オスカル提督の目付将校である。
提督の理非曲直(りひきょくちょく)の全てを、本国に通報する役目で、例えオスカルと云えども、彼には一目置く存在であると云えよう。

マクシーは、オスカル提督達のこの度の歓迎パーティーといい、腹心の阿鸞が、そのパーティに主賓である日本人達を、こうして連れ回していることといい、直感で、何かあると感じていた。
何か事あらば、本国に通報して、オスカル提督失脚を目論(もくろ)んでいるマクシー将校である。
臭いと睨んだからこそ、偶然を装っているが、こうして彼らを付けてきたのであった。
日本人を、どうして案内しているのか問われた阿鸞は、とっさのことに、答えに窮してしまった。

『そ、それはですなあ、この方達が、呂宋焼きの陶器を研究されたいと仰せられておりまして、それを提督が後押しをして、応援されておられるのです、なにしろ日本の徳川幕府の依頼ですから・・・』
無理矢理に言い訳したが、そのようなことで納得するようなマクシーではない。
『けっ、まあいいさ、それで今から何処へ行くんだい?』
マクシーは、舌打ちをしながらも、鋭く突っ込んだ。


続く・・・


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