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鉄じいがゆく 1_初来比 [鉄じい]

フィリピンの朝は早い。

昨日の記事で述べたように、学校が2交代もしくは、3交代なので、必然的に朝は早く始まる。
朝まだ5時前に起きて、朝食を摂ったり、シャワーを浴びたりの、大忙しである。

子供の多い家庭などは、全く、戦場のような光景だ。

今朝は、2時に目がさめた。
午前2時と云えば、『草木も眠る、丑三つ時』だ。

さすがにまだ、この時間にゴソゴソしている奴は、うちのサブディビションにはいない。

朝あまりに早く目がさめた為、5時に会社に来てしまった。
ガードマンも、またこいつが、と思っている事だろう。

私の出勤が早いと、ガードマンが、オフィスの鍵を、全て開けて回らなければ、ならなくなる。
結構広いし、オフィスも部署毎に違って、沢山あるから大変だ。

大体、始業3時間前もから出勤して来る奴など、他にはいない。
彼らにとって、いい迷惑なのは、間違いないだろう。

今日の2本目から、暫く趣向を変えて、実際にあった私の友人の話をしよう。

私は以前、バクラーランの教会近くに住んでいたことがある。
日本で云えば、東京の下町だ。

住人の気質も、下町かたぎと言うのか、面倒見のいい、それでいて喧嘩っ早い連中が多かった。

バクラーラン住み始めてから半年目のある日、日本から友達がやってくる、という連絡を受けた。
友達といっても、年は私より10歳も上なのだが、その彼が、『俺もここに住みたい』、と云ってきた。

彼は、私の日本時代のPPフレンドである。
あだ名を、『鉄』という。

彼には孫がいるので、私はいつも彼のことを、親しみを込めて、『鉄のじいさん』、とか、『鉄じい』、と呼んでいた。

あだ名の由来は、鉄のように固い、つまり頑固で、強情張りな性格から来ている訳だが、その彼が、この度、自分の商売である『床屋』を娘婿に譲って、若隠居の身分で、フィリピンにまで来てしまった訳だ。

しかもどうやら、何か商売でもしながら、このフィリピンで暮らしていきたい、とも云っている。

たった一回も、フィリピンに来たこともないくせに、私がいる、という理由だけで、飛んでくるのだから、無茶で恐ろしい男だ。

どんな人かというと、昔、空手もやっていたそうで、祭りが大好き、飲み屋で、酔って調子に乗ると、
ガラスのコップを女の子の前で、バリバリ齧って食べるというのが、趣味な男だ。

信じて貰えないかも知れないが、事実だから仕方がない。

いかにも落語に出てきそうな、キャラクターの持ち主なのだが、彼がここに来ると聞いた瞬間、私には、いやーな予感が頭によぎるのを、禁じ得なかった。

(あの性格でフィリピンにくるとは、恐れを知らなさすぎる。 PPのようなバーチャルワールドとは訳が違うし、無謀すぎる)
私は、そう思ったのだが、来るというものは仕方が無い。

日本にいた頃は、いろいろ世話になっていたのだから、文句を云うのは諦めた。
何とか面倒を見よう、そう心に決めた。

『鉄じい』には、日本のPPに、特定のお気に入りの彼女が出来ていて、その彼女を追いかけてきた、というのも、一つの理由らしい。

8月のある日、彼はやって来た。
その時まで私は、フィリピン初来比の彼が、来た瞬間から、空港でトラブルを起こすとは、夢にも思わなかった。

その日の、午後2時過ぎにマニラに到着だというので、私のフィリピン人の友達である、空港警察勤務の、『ボーイ』、という男に、彼の迎えを頼んでいた。

奴なら、入管の手前で、『鉄じい』を迎えることが出来る。
英語も知らず、飲み屋で話す、スケベなタガログ語しか知らない彼には、心強い味方だ。
私は、ビールを飲みながら、家で待機だ。

無事に到着していれば、遅くても午後3時前迄には、全ての手続きが終わって、『ボーイ』から、連絡がある筈なのだが、午後4時になっても何の連絡も来ない。

「ひょっとして、友達と出会わなかったのかな」、そう私が思っていた時、突然私の携帯電話の呼び音が鳴り響いた。

(ボーイからだ。)

そう思った私は、受話ボタンを押し、『Hello』と答えた。
そうすると向こうから、聞きなれない日本人の声が聞こえてきた。

『もしもし、〇〇さんですか?、こちら、日本大使館です。』
『なぬ.......』

『あなたのお友達だという人が、空港で拘束されているらしいのですが、事情を話して、引き取りに行ってもらうことは、出来ませんか?』
『???』

『実は、あなたのお友達が、飛行機の機内で酔っ払って、客室乗務員の前で、ワイン用のグラスを食べちゃったらしいんです。』
『?????』

全然理解が、出来ない。

『それで、驚いた乗務員が、空港に到着後、病院へ連れて行こうとしたのですが、暴れて言うことを聞かないそうなのです。』

事情が飲み込めた。

私は、すぐに電話を切ると、例の空港警察官の、『ボーイ』に連絡を取った。
『おい、大変だ』
『こっちも、大変だよ。あんたの友達、違う便に乗ったんじゃないの、まだ来ないよ』

私は慌てて彼に事情を説明した。

『と、云う訳で、未だ機内にいるらしいんだ。 すぐに行くから、先に行って、何とかしてくれ』
『わかった、病院はどうするの?』
『病院は必要ない。 あのおっさんは、グラスの1つや2つは、簡単に平らげる。 とにかく、あんたが保証人にでもなって、何とか奴を、空港の外に連れ出してくれ!!。』

私はそういうと、外へ出てタクシーを拾って、空港に向かった。

バクラーランから国際空港まで、車で10分程度だ。
空港到着後、1時間ほどして、『ボーイ』が、やっと『鉄じい』を連れ出して来てくれた。

『おい、あんたの友達、言葉が分かんないもんだから、大変だったよ。 俺が一筆書いて、ようやく出してくれたけど、本当に病院に連れて行かなくていいの?』

ひそひそ声で、彼が言った。
よっぽど大変な奴の保証人になったと、後悔している様子だ。

『いいんだ、いいんだ、有難う、今晩一杯おごるよ。 あとで一緒に飲もう。』
私は、彼にそう云って礼を言うと、鉄じいを脇に抱えるようにして、タクシーに乗り込んだ。

タクシーに乗り込むと、開口一番、私はまくし立てた。
『鉄じいさん、いい加減にしておくんなはれ、どないしましたねん?』

興奮してきたので、またまた関西弁になった。

『僕はねー』
鉄じいは、何か悪いことなどして、気まずい時には、「僕は」、などというが、いつもは、「わし、わし」、で通す男だ。

『僕はねー、何にも悪いことなんか、してませんねん』
かなり、しょ気返った表情をしながら、『鉄じい』が言った。
『じゃあ何で拘束されたの?』

『客室乗務員のオネーちやんに受けようおもうて、ワイングラス、1個だけ食べましたねん、1個だけ』
『個数の問題ちゃう』
『................』

『じいさん、ええ加減にしなはれや、 フィリピンくんだりまで来て、けったいなことして、だれでもビックリするがな、第一、飛行機の中で、グラスを食べる客がどこにおるねん!!』
『ここにおる』
『................』

私は、呆れてものも云えなかったが、タクシーを降りて、家にたどり着いても、くどくどと念をおした。

『とにかく、ここで本当に暮らしたかったら、このわてに従って貰わなあかん。 そうせへんと大変なこっちゃ、あんた、日本にもうちょっとで、強制送還やったがな』
じいさんは、頭を垂れて返事をした。

『わかった、そうする』

『鉄じい』は、心から反省したのか、神妙に頷いたが、そんな玉ではないことに、気がつかされたのは、その日の夜のことだった。

『鉄じい』に、明日はあるのか!?

来週に続く.........。

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コメント 6

tom in manila

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なんか、すごいお話がでてきそうですね。
わくわく、

by tom in manila (2007-06-16 07:23) 

moimoi

TITLE: tom in manilaさん
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そう云われると、プレッシャーが掛かります(笑)

この人の話になると、いろいろ長くなるので、ちょっと構成を考えながら、出して行こうと思います。


by moimoi (2007-06-16 07:53) 

junsbar

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おはようございます。
昔2時間前には出勤しておりましたが
今や1時間前出勤
全部鍵を開けるガードマンも大変(迷惑か?)
鉄じい、(大)変な人物が登場しました。
この男興味あり
次回後編が楽しみです。

by junsbar (2007-06-16 19:21) 

yutaro

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この後、どうゆう展開になるのか、
楽しみです。


by yutaro (2007-06-17 00:37) 

moimoi

TITLE: junsbarさん
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この鉄じいは、本当に半端な男ではありません。

あちこちで波乱を起こします。
私も、回りにいるフィリピン人も、全て巻き込んでいきます。

後半で、終わりではなくて、シリーズ化すると思います。

by moimoi (2007-06-17 22:46) 

moimoi

TITLE: yutaroさん
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あまりに、個性が強すぎる為日本では、人々に受け入られなかった男が、フィリピンに来て、起こす大波乱劇の物語です。

まだまだ、続いていきます。

by moimoi (2007-06-17 22:50) 

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