鉄じいがゆく ～エピローグ～ 後編

鉄じいには、ダンの気持ちが痛いほど分かった。
この男には、世話になりっぱなしだが、何一つ、彼に恩返しなどしていない。
この上、今回のこの問題だ。
封印していたはずの、空手技など、どうして使ってしまったのであろう。
悔やんでも悔やみきれない、鉄じいである。

『よっしゃ、こうなったら、３６計じゃ！』
鉄じいが、いきなり叫んでそう云った。
『３６計？』、そう私が云うと、
『おうよ、兵法３６計逃げるにしかずじゃ、わしは日本へ帰るでえ・・・』
『帰るって、メリーサは、どないしまんねん？』

『メリーサのことは、お前に頼むがな、必ず日本に呼ぶで、必要な物は、日本から全部お前に送るさかい、あんじょう頼むわ！』
『よっしゃ！、メリーサのことは、任しときや、こっちで何とかしまんがな。』
鉄じいの、気持ちが分かった私は、ダンにもそれを伝えると、ダンも理解したのか、鉄じいの手を取って、ぐっと握りしめた。

考えてみれば、これが一番いい選択であろう。
このままここに、踏みとどまれば、一番迷惑を蒙るのは、ダンに相違ない。
KTVの許可もダンの名前だし、経営者ではなくて、酔っ払い同士の喧嘩ということにしておけば、少なくても、ダンにはあまり、迷惑が掛からないかも知れない。
万が一、訴訟になっても、本人がいなければ、どうにもならないはずだ。

問題は、メリーサであろう。
彼女にそのことを云うと、いきなりわんわんと泣き始めた。
メリーサにしてみれば当然で、自分の身を守ろうとしてくれた鉄じいが、結果的に、このようなことになろうとは、夢にも思わなかったのだ。
鉄じいは、そんな彼女を抱きしめて、こう云った。

『心配せんでええ、わしとお前は、魂と魂でつながっとる仲や、　そんなに長い別れでもない、又すぐに会えるがな、後のことは、こいつに任せとくさかい、なあ！』
鉄じいが、私の方を指差して、そういうので、私も、メリーサに向かい、安心するように、言い聞かすと、やっと納得したのか、彼女は泣くのをやめたようだ。
鉄じいの顔を見て、にっこりと微笑んでいる。

善は急げという訳で、店の人間に口止めをすることや、後事のことを、私と打ち合わせをした後、鉄じいは、一旦アパートに帰り、荷物を纏めた後、又戻ってきた。
鉄じいの、アパートは危ないので、ホテルに移動して置いて、夜が明けたら、飛行機のチケットが取れ次第、フィリピンを離れることにしたのである。
ホテルまで、メリーサは勿論、ダンまでもついて来てくれた。

万が一のことを、恐れたからである。
酔っ払い男は、病院に運ばれたが、一応付き添いに、トンを置いては来ているものの、奴の兄貴がやってきて、騒ぎ始めたら事である。
ホテルに着くと、部屋まで一緒に送ってくれて、ダンは帰ろうとした。
鉄じいは、ダンに向かってこう云った。

『ダン、本当に色々有難う！もし、カラオケをあのまま続けるなら、調度品、そのほかの全てのものは、あんたに上げるさかい、使うてやってや！』
鉄じいにしてみれば、それでも足りないと思ったのか、ジープも、ダンに進呈することにした上に、アパートにある家具や、電気製品もそれに添えることにした。
殆んど、買って間もないばかりの物なので、まだ新しかった。

メリーサは、安全を考えて、ほとぼりが覚めるまでは、ミンドロに帰ることになったので、アパートは、取り合えず、必要がなくなったのだ。
ダンは、思わぬ申し出に戸惑っていたが、「まだ、これから後始末をしなければいけないし、お金も掛かるかも知れないので、貰っておけば」、という私の進言に頷いて、気持ちよく受け取る事にした。

夜が明けて、鉄じいは、空港警察のボーイの働きで、PRのチケットを取る事が出来たので、その日の午後、とうとう、フィリピンを立つことになった。
ボーイのはからいで、通常のゲートより、違う門まで送っていくことが出来たが、メリーサとの別れ際の抱擁では、さすがの鉄じいも、涙が溢れていた。
メリーサも、勿論すすり泣いている。

二人の抱擁は、それからも、長く続いた。
7月の、雨季真っ只中の、小雨の降る日の午後であった。
 

鉄じいがゆく　完

 

コメント 36

おはようございます、

そうですか、日本に帰ることにしましたか鉄じい、最高の

解決策、鉄じいなかなかやりますね。

でもめりーさの問題が？日本に呼び寄せるまで最速で

も１年いえもっと、また１話、moimoiさんお願いします。
by はっつ (2007-11-30 09:05) 

とりあえず無事でよかったですね、といいたい。
メリーサはいつでも日本にこれるのだから。。
by tom in manila (2007-11-30 09:20) 

結局鉄じいはﾌｨﾘﾋﾟﾝを離れたのですか。
ﾌｨﾘﾋﾟﾝの仕来りの中では大和魂は開花しなかったのか。
その後メリーサとの仲はどうなったのかは聞かないでおきましょうか。
日本人とフィリピン人の結婚は簡単のようで複雑ですよね。
まして遠距離になってしまうと、会話や習慣の違いで起きる誤解で疎遠になってしまうケースも多々あります。
何はともあれmoimoiさん、有難うございました、そしてご苦労様でした。
by めでたしめでたし！ (2007-11-30 09:43) 

エェー　これで完ですか？
メリーサと鉄じぃのその後のことが気になります。

あとは読者の想像で！と言う事でしょうか？

お疲れ様でした。
楽しく拝読させて戴きました。
有難うございます。
by sababg (2007-11-30 09:45) 

ｂyめでたしめでたし、って名前に入れちゃった<ﾌﾟ
by Yamachang (2007-11-30 10:06) 

まだ、続き…出来ますね…(ﾌﾟｯ


最近でも空港での別れで『泣く』ような純なﾋﾟﾅちゃんいますか??…(ﾌﾞﾎｫ～
by 裂空ミスキタ (2007-11-30 10:10) 

明日からは 『 鉄じいがゆく　～その後編～ 』 かな？

楽しみにしております。　(^o^)v　
by hide (2007-11-30 10:11) 

はっつさん

この先は、あとがきで、述べていきましょう!!
取り合えず、全て書き終えて、今はほっとしています。
あとがき書いたら何をしましょうかね・・て、本来の就労日記に取り合えず戻りますか!!!
by moimoi (2007-11-30 10:12) 

tom in manila さん

そうですね！
帰ってしまえば、こっちの勝ちです！
この当時は、在留資格認定とか、厳しくなる前なので、割と簡単に日本に行けました。
by moimoi (2007-11-30 10:15) 

めでたしめでたし！さん

＞ﾌｨﾘﾋﾟﾝの仕来りの中では大和魂は開花しなかったのか。
これが出来たら痛快だったでしょうね!!
意気消沈で、日本に帰った鉄じいですが、トラブル続きだったフィリピンでしたから、日本で暮らすほうが、正解だったのでしょう!!!
by moimoi (2007-11-30 10:19) 

sababgさん

大丈夫です！
まだあとがきが、控えています！（笑）
その時に、その後の鉄じいについて、触れて行きたいと思います。
こちらこそ、ご愛読有難う御座いました。
by moimoi (2007-11-30 10:22) 

Yamachangさん

どひゃー!!!
by moimoi (2007-11-30 10:23) 

裂空ミスキタさん

＞まだ、続き…出来ますね…(ﾌﾟｯ
これで、続けたら今度こそ皆さんから怒られますね！
涙の別れは、空港では結構見ますよ！
演技？
それは、分かりませんが…(ﾌﾞﾎｫ～
by moimoi (2007-11-30 10:27) 

hideさん

本当に終わりですって！（笑）
あとがきシリーズで、１０話位ですか・・・（爆）
by moimoi (2007-11-30 10:29) 

帰国・・・法の正義の無いフィリピンではこれしか方法は無いでしょう・・・

空港での別れ・・・俺は嫌いなので人に見送らせた事が無いです！
いや，見送ってくれる人が居ない！・・・かなぁ～～（笑
by Leo (2007-11-30 10:36) 

帰国ですか～
残念ですがそれが現実なのでしょう
今でも似たようなことが起きているのでしょうね
当初の目的
「本能vs煩悩、フィリピン人と鉄じい」
総括編を期待しております！
これも長くなるのですよね？（笑）
by shimoky (2007-11-30 10:43) 

Leoさん

他に方法は、考えられませんね！
逃げるが勝ちですよ！
相手も、日本までは、追いかけて来られませんから！（笑）

＞いや，見送ってくれる人が居ない！・・・かなぁ～～（笑
多すぎて、整理券を配らないといけないくらいでは・・・（爆）
by moimoi (2007-11-30 11:04) 

shimokyさん

＞今でも似たようなことが起きているのでしょうね
毎日のようにあるかも知れません！（笑）
あとがきでなく、総括編ですか？
それもいいですね！
お言葉に甘えて、part１００位まで・・・（爆）
by moimoi (2007-11-30 11:06) 

続編を期待しています。
by hiro (2007-11-30 12:21) 

今日は、夜まで待てないそんな思い
そちらはAndres Bonifacio Day でお休み
何をなされているかと思いながら書いております。
お疲れ様でしたと書かないといけないでしょう
何時からmoimoiさんの日記に寄らさせて頂いたのか
定かではありません。
この鉄じいシリーズとにかく第１回目より愛読
今日此処にめでたく最終回を向かえ
私もほっとした気分でおりますが
やはり、ハンカチ無しではこの最終回読むことは出来ませんでした。
別れには、いろいろありますが
何時か逢える
そんな別れも
何か自分の事の様に
とにかく最終回まで楽しく、またいろいろ作者の引っ張りもありましたが
取り合えず此処でありがとうの気持ちを込めて
Maraming salamat po
by junsbar (2007-11-30 12:25) 

hiroさん

残念ながら、続編はないのですが、次回はフィクションに挑戦して見たいと思います。
ブログは、時々拝見させて頂いております。
濃い内容で、驚きの連続ですね！
これからも、宜しくお願いします。
by moimoi (2007-11-30 12:39) 

junsbarさん

長編のコメント有難う御座います！（笑）
鉄じいがゆくも、これで本当に最後を迎えました。
これも、いつもコメントを下さる皆様のお蔭ですが、junsbarさんには、殆んど、最初の頃からお付き合い頂いて、感謝しております。

私の思いが、皆様に、どう伝わっていったのか、少し不安はありますが、今はただ、ほっとしたとしか、云い様がありません。
実は、最後のエピローグは、書かないつもりでした。
書くと、読者の方は、幻滅してしまうのではないかと思ったのです。

敢えて書いたのは、事実は事実として、現実を受け入れるべきだと判断したからなのですが、書いていて、やはりこちらも寂しくなりました。
快男児、鉄じいも、その方を、きっと受け入れてくれると思います。

もうこれ以上、引っ張れないのかと思うと残念ですが〈爆）、次回のフィリピン小説に、ご期待を宜しくお願いします!!!

＞そちらはAndres Bonifacio Day でお休み・・
本日は、出勤日で、明日振替で休日になりました。
明日と、明後日の更新はありません。
ダンと一緒に、彼の別荘もどきに行って参ります。
片道5時間！
綺麗な海と、新鮮な魚が待っています!!!
その模様は、来週またUPしますね♪♪
by moimoi (2007-11-30 12:54) 

お疲れさまでした、鉄爺のことは此れで一応終わりですね、行動力のある破天荒な爺さん・・・・・

　こんな日本人がいてもいいですね？まあそばにいる方はそれどこでないでしょうが・・・・・

　このあと何がでてくるか？・・・楽しみです
by imus0216 (2007-11-30 13:18) 

imus0216さん

『破天荒』、いい響きの言葉ですね！
鉄じいにピッタリです。
彼を理解出来るのは、私だけです・・・何て云うと語弊がありますが、実際、日本にいたときから、あまり、人に理解されない人でした。
まあ、トラブルメーカーなので、仕方ないのかも知れませんが・・・

次作品に、ご期待ください!!!
by moimoi (2007-11-30 13:51) 

とても素晴らしい長編大作!!有難うございました。
大変X2お疲れ様でした。

そうだったのですか??!!　他にチョイスはありませんね!!
Best Choiceでしょう。。。。鉄じいとメリーサは何処へ
by OSCAR (2007-11-30 14:23) 

波乱万丈の鉄じいのフィリピンでの生活ではありますが、
それは周りの人から見える鉄じいの生き様だと思います、
鉄じい自身は自分が生きている事を確認するかのように
自己主張をしてきたかのように思えます。
それが、私にとっての鉄じいの魅力ですね、周りの人たち
に助けられフィリピンでは生きてこれたのですが、メリーサ
を日本に迎え入れた後二人で幸せに暮らせるのでしょうか
、作者やダンの居ない日本でトラブルを起こしたときにメリーサを
加護し自分で解決できるのでしょうか、心配ではありますが、
お二人に幸多からんことを祈ります。
by NO NAME (2007-11-30 14:46) 

OSCARさん

＞Best Choiceでしょう。。。。
やはり、皆さんもそう思いますよねえ！
その時は、いろいろ他に方法がないか、悩んだのですが、それが一番だったのでしょう!!
今は、多分日本で仲良く暮らしていることでしょう!!
そう､考えるしかありません。

ところで、次回は行きましょうね！
海、海、海！
by moimoi (2007-11-30 15:02) 

ＮＯ　ＮＡＭＥさん

鉄じいの生き様を考えていくと、波乱万丈のように見えますが、本人としてみたら、自然に振舞ってきただけなのですね！
そんな人が、日本でうまくいっているのだろうかとのご指摘!!
鋭いですね！
その後の鉄じいについては、あとがきで触れていきましょう!!!
by moimoi (2007-11-30 15:07) 

鉄じいシリーズ完結お疲れ様でした。
鉄じいが日本に帰国したのは正解ですね。
何かが有ってからでは遅いですし、特にフレームアップなどで逮捕状が出てからでは帰国したくても出来ないですからね。
以前Ｐ国滞在時、私に冤罪で逮捕状が出たのが判った時は、逮捕状が出た後なので日本に帰国できませんでした。
moimoiさんや他の諸先輩方のブログを拝見して、自分でも書いて見ようかなと思い、実体験をＵＰしてみました。時間が有ったら寄ってみて下さい。
もちろん鉄じいシリーズと同じく実体験なのでおもしろ可笑しくとは行きませんが、お許し下さい。
P,S,申し訳御座いません名前を×２男からjapinoakoに変更します。
by ×２男 (2007-11-30 20:16) 

今週は色々とありましが、欠かさず読んでいました！ このストーリーにひきつけられてたんですね。
今後の展開が楽しみです・・・
って、もう終わってしまったんですね（汗）　
長時間の執筆、お疲れ様でした。楽しい一時をありがとうございました。　
「ガラス食い」という至上最強の護身術本当に勉強になりましたし（絶対出来ませんが）。。（爆）

正直、その後の鉄爺のことがどうしても気になってしまいますが、今もどこかで伝説更新中でしょうか（笑）

「鉄爺はどこまでもゆく・現在編」　期待してます（冗談）
by kenny (2007-11-30 23:34) 

鉄じいの安全は確保されますが、離れ離れになってしまう２人、ほっとした気持ちもあり、また寂しい気もして、物語も終わりと思うと、複雑な心境です。
by (2007-12-01 01:10) 

こんばんは。
フィリピン就労日記であったはず？のこのブログがいつの間にか事実をもとにした小説に変わっていって、だけど思った以上に私を含めた読者の共感を得られましたね。
次はこのブログがどうなっていくのでしょう。
きっと、就労日記という枠に収まらずに、良い意味で私たちの想像を裏切ってくれるものと期待しています。
by harajuku (2007-12-02 23:03) 

×２男さん

＞以前Ｐ国滞在時、私に冤罪で逮捕状が出たのが判った時・・・
おやおや、波乱万丈は、鉄じいだけかと思ったら、皆さん多かれ少なかれ、この国に携わる人には、いろいろな体験談を持つ人は多いですね。

ブログを始められたのですね！
是非拝見させていただきたいと思います！！！
by moimoi (2007-12-03 08:13) 

kennyさん

鉄じいは不滅です・・て云いたいのですが、正直彼が今何をしているのか分かりません。
その件については、あとがきでUPしていきますが、やはり、私のいないところで伝説は更新しているのでしょう!!!
そう、希望しています！
by moimoi (2007-12-03 08:18) 

いけ麺さん

物語を、ハッピーエンドで終わらしたかった気持ちを分かっていただけましたでしょうか？
やはり、最後まで書いてしまうと、むなしい物が、心に残ってしまいますね！
最後のあとがきまで、どうぞお付き合い願いたいと思います!!!
by moimoi (2007-12-03 08:21) 

harajukuさん

ご指摘の通り、就労日記とはほど遠くなってしまいました！〈笑）
まあ、仕方ありません。
これからも、この形になるのでしょう!!
気長にやっていきますので、これからもご愛読宜しくお願いします!!!
by moimoi (2007-12-03 08:24)