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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第六回 [フィクション]

作者の心配をよそに、大橋は、瓶の中から1つの錠剤を取り出した。
そしてそれを、足で踏みつぶして粉にすると、水の中に入れて溶かし込んだ。
『うん、これで良し!』
大橋はそう呟くと、その水を湯呑みの中に入れた。
『おいとろ吉、こいつを馬造に渡して、何とか松五郎に飲ませろ!』

『ひゃあ、これってあっちの薬でしょう?、大丈夫なんすかねえ、松五郎なんかに飲ませて・・・』
とろ吉は、心配そうにそう言った。
『いいから、言う通りにせい、わしに考えがある。』
大橋が、ほくそ笑みながらそう言うので、とろ吉は、馬造を探すべくそこを出て行った。
それから、しばらくして・・・

『あ~、暑いなあ、厨房にいると、暑くって仕方がねえや!』
松五郎が、煮物をしながらそうつぶやいた。
『あっ、松五郎さん。』
『おう、馬造さんじゃあねえか、一体どうしたい?』
『いや、何かお手伝いしようかと思いやしてね。』

『いやあ、今煮物を仕込んだばかりでな、他にすることはねえんだ。しかし、ここは暑くってなあ・・』
『あっ、それなら丁度いいや、今丁度水を持って参りましたから、良かったらどうぞ・・・』
『おっ、こりゃあ済まねえな、じゃっ頂くぜ!』
松五郎は、他ならぬ馬造から渡された水なので、何の疑いもなく一気に飲んだ。
最も、馬造もその水に仕掛けがあろうなどとは、聞かされてはいなかったが・・・。

『むっ、おかしな味がするな・・・?』
とは、松五郎は言わなかった。
余程喉が乾いていたので、味など気にはならなかったのだ。
一刻後(2時間後)。
松五郎が、下半身を露出しながら甲板に出てきた。

目が血走っている。
しきりにうわ言で、『おんな、おんな』と、つぶやきながらさまよっていた。
そこに、乗員の洗濯をしていた、弁当と、お順、お欄を見つけたから大変だ。
『お、お、お、女じゃ~!』
松五郎は、狂喜の形相で、3人に飛びついていった。

驚いたのは、彼女たちである。
松五郎が、血走ったまなこで、股間の一物を振りかざしながら襲ってきたのだ。
溜ったものではない。
『キャーっ・・・』
あたりは、阿鼻叫喚で騒然となった。

その時である。
松五郎が、女の一人である弁当の肩を掴んだ時である。
『いやあああああああああああああああああああ』
弁当は、得意の一本背負いを掛けた。
松五郎は宙を舞い、はるか向こうの船壁に、思い切り叩きつけられた。

騒ぎを聞きつけて、みんな集まってきた。
気を失った松五郎を取り巻く中、鴨野が口火を切って理由を尋ねた。
『ふむふむ・・・な、な、何じゃと?』
女たちから理由を聞いてみたが、とても信じられない内容である。
鴨野は、気を失ってもまだ、股間を膨らませたままの松五郎を、不思議そうに眺めていた。


続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第五回 [フィクション]

『怒涛丸』は、順調に航海を続けていた。
その頃の航路は、蒸気船ならともかく、帆船であるならば、風(季節風)と海流(親潮、黒潮)に左右されていたので、必然的に航行出来る場所は限られていたが、『怒涛丸』は、問題なく豊後水道を超え、日向灘を抜けて、とうとう外洋に抜けることが出来たのである。
途中、種子島に寄港し、食料や水を仕入れたが、後は琉球に着くまでは、何処にも寄港出来ない。

それまでは、冬の海なので、順風満帆とまでは行かなかったが、それでも小さい嵐を経験しただけで、近場の港に退避出来たから、被害は少なくて済んだ。
これからは、そうはいかないであろう。
『乗組員全員、心して掛からなければいけない、琉球を過ぎたら、呂宋まではもう近いぞ~!』
鴨野は朝礼で、全員に対しそう激励叱咤した。

大橋は、その演説を聞きながら、苦虫を潰したような顔をしていた。
副艦長でありながら、さしたる仕事もなく、その上、大好きな料理が出来る、調理長の座まで松五郎に奪われたのだから、面白くないのに間違いなかろう。
その時である。
とろ吉が、へらへら笑いながら顔を出した。

『へへへ、大虎の兄貴、ご機嫌斜めのようですね。』
『あたぼうよ、こちとら謹慎中で何も出来ねえんで退屈なんだ、おいとろ吉、酒でも飲みてえな?』
大橋は、肩肘をついたまま、寝そべりながらそう言った。
『へへへ、そう言うだろうと思っていやしたぜ、ほらここに良い酒がありまさあ・・・』
『てめえ、さっきからにやにやしてたのは、このせいだったんだな、おい早く飲ませろ!』

大橋は、むくむくと起き上がりながら、とろ吉に催促した。
『へいへい、ただいま。』
とろ吉が持ってきたのは、種子島で食料を調達したときに、ドサクサに紛れて仕入れた芋焼酎だ。
以前から積んであった酒は、大橋がまた飲んで暴れないようにとの配慮から、破棄処分されていた。
大橋が面白くなかった原因は、ここにもあったのである。

芋焼酎の入った大徳利は、あっという間に無くなった。
とろ吉に、もっと持って来いと催促したが、それしか買ってないと言う。
『この馬鹿野郎!』
と雷を落としたが、とろ吉にしてみても、禁じられた品物を買ったわけで、人目に隠れて買ったのだから、そんなには量は調達出来ようはずもなかった。

兄貴分である大橋のことを思って買ったのだから、大橋もそれ以上は文句は言えなかった。
しかし、なまじ少し飲んでしまったから、腹の虫は収まらなかった。
『おい、とろ吉!、台所に料理用の酒があったろう、あいつをちょいと失敬しようじゃあねえか?』
大橋は、良いアイデが浮かんだので上機嫌だ。
『えっ、兄貴あの酒をですかい?あれはやべえっすよ!』

『馬鹿野郎、どうしてやべえってわかるんでえ?』
『あそこは、松五郎が四六時中番をしていてやしてね、うっかりと手出しが出来ねえんでさあ。』
それもそうである。
松五郎は、もともと伊賀の忍びである。
ただの居酒屋のあるじではない。

一筋縄ではいかないのは目に見えている。
『こいつあちょいと、ひと工夫必要なようだな・・・』
大橋は、そうつぶやいて、暫く考えていたが、やがて良い考えが閃いたのか、ハタと膝を叩き、自分の荷物から何やら瓶の容器を引っ張り出し、手に取って、そこに書いてある名前を確認した。
そこには、な、な、な、何と、『美国猛男』、の四文字が・・・・・・・・・・・


続くけど、これってやばかねえ?(爆)


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第四回 [フィクション]

大橋は、大鼾で船内に横たわっている。
その鼾の振動で、船がびりびりと揺れるほどだ。
松五郎は、その姿を見てほくそ笑んだ。
(この男、このままでは済む筈がない、これで調理長は俺のもの、イヒヒ・・)
何も知らずに大橋は、朝まで鼾を掻きながら寝てしまった。

結局大橋は、翌日の昼過ぎまで眠ってしまった。
何しろ松五郎が酒に入れた眠り薬は、伊賀特有の秘薬で、大人五人分に匹敵するシロモノだった。
それを松五郎は、全部入れたのだ。
さしもの大橋も、堪ったものではない。
余程、調理長の座が欲しかったに違いないが、普通の人間なら死んでいたかも知れない。

目の覚めた大橋は、一体何が起こったのか分からずに、横たわったままきょとんとしている。
神事屋がそれを覗き込んで、話し掛けた。
『うむ、目覚められたようですな!?』
『おお、神事屋殿、これは一体どうしたことでしょうか?』
大橋は、不審そうな顔をして神事屋に尋ねた。

神事屋は、夕べのことを全てを話して聞かせた。
『どひゃあ・・・・』
大橋は、いきなり起き上がって叫び声を上げた。
『さ、さ、さ、左様で御座ったか?拙者としたことが、こ、これは恥ずかしい・・・』
大橋は、さも後悔した様子で、穴があったら入りたいような顔をしている。

そこに、鴨野もやって来た。
大橋は、鴨野を見ると、手をついて謝ったのは言うまでもない。
そんな大橋に、鴨野は優しく諭してこう言った。
『大橋殿、貴殿の代わりに、今朝から松五郎が調理の指揮をしています、どうですかな、しばらく貴殿は謹慎されて、松五郎に調理を任されたら。。』

大橋は、一も二もなく、それを受けざるを得なかった。
『かしこまって御座る・・・』
そう言うと彼は、頭を抱えながら、謹慎すべく、船内の片隅へと立ち去っていった。
『大橋、敗れたり!!』
松五郎は、その姿を盗み見て、そう心の中で叫んで笑った。


月曜日に続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第三回 [フィクション]

とろ吉は、馬造を呼び出して、酒を持って来させた。
最初は三人でちびちび飲んでいたが、段々と酒が入ってくると、気が大きくなってきたのか、大橋が、『馬~、もっと持ってこいや~』、と騒ぎ始めた。
最初の小さな盃も、段々と容器が大きくなり、今では大きな桶で一気飲みをし始めた3人である。
『大虎の兄貴、大丈夫っすかねえこんなに飲んで?、艦長に見つかりでもしたら・・・』

馬造が不安そうな顔をして、大橋の顔を覗き込んだ。
『馬鹿野郎てめえ、俺に忠告するなんざあ百年早えや、おいとろ吉よ、こいつを埋めろ!』
大橋は、大声で馬造に向かって怒鳴った後、酔って目が座った顔を、ぎょろりととろ吉に向けた。
『あ、あ、兄貴、ここには土はありませんぜ、埋められません。』
『じゃあ、海にでも放り込め・・・』

『ひえええ~』
馬造は、悲鳴を上げながら立ち上がって逃げ出した。
本気で、海に叩き込まれでもしたら、溜まろうはずはない。
虎造の目は完全に逝っていて、本当にやりかねないのだ。
大橋は、馬造が逃げたので、とうとう怒気を発した。

『とろ吉い、早く追い掛けて、馬造を引っ括って来~い!』
こう言われると、とろ吉も大橋には逆らえない。
大きい身体をむくっと立ち上げて、馬造を追い掛けた始めた。
『ぐおらあぁぁぁぁぁ~』
馬造は、必死で逃げたが狭い船内のことである。

直ぐに捕まった。
が・・・・、馬造が大声で喚いていたので、眠っていた人々が、わらわらと起きてきた。
お欄が見て、悲鳴を上げる。
鴨野が直ぐに、すっ飛んできた。
とろ吉は、これはやばいと思い、直ぐに手を離してその場を逃げ出そうとした。

その時である。
完全に酔った大橋が、はちまき姿で皆の前に姿を現した。
まるで、ゴジラか大魔神の登場のごとく、『ぐわおー』と叫びながらであった。
手には、どぶろくの樽を下げている。
『馬は、どこじゃー!』

目が、完全に血走っている。
完全にキレているようだ。
鴨野はそれを見て、何やら説得を試みたが、聞く様子も見せない。
こう平が、酒を取り上げようとして、跳ね飛ばされた。
駆け寄って、泣きじゃくる弁当。

萬久は、縄を持って捕獲しようとしたが、縄をちぎられて敢え無く敗退。
もう、誰も為す術がなかった。
その時である。
(これはわしが調理長になる千載一遇の好機じゃ、今のうちに・・・)
そう思って、自分の懐から、妙な液体を取り出した男がいる。

松五郎であった。
松五郎は、倉庫に行って酒を取ってくると、その中に、その妙な液体を全部入れた。
そうして、それを大橋に勧めたのである。
何も知らない大橋は、それを全部、一息で空けてしまった。
5分後、大虎はそこで、へたり込むようにして眠ってしまったのである。

続く・・・


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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第二回 [フィクション]

『おおい、馬よ~!』
大橋が叫んだ。
『へーい。』
馬造が、走って来てそう答えた。
『味噌が足りねえ、ちょっくら倉庫まで行って、取ってきてくんな。』

『へえ、合点でさあ大虎兄さん!』
馬造は、大橋とすっかり仲良くなり、と言うより力関係で押さえつけられてだが・・・、今では、強制的に弟分にさせられてしまっていた。
大橋には、既にとろ吉と言う弟分がいたので、馬造は、そのとろ吉の弟分ということにもなる。
従ってとろ吉にも、『とろ兄さん』、と呼ばなければならない馬造であった。

大橋は、配下のとろ吉や馬造、こう平夫婦を手足のように使い、船内の賄いを一切請け負っている。
まあ、副艦長兼調理長でもあるので当然のことだが、居酒屋の亭主であった松五郎には、これが一番の不満であった。
伊賀の忍びとして、金さんの密偵を勤めていたが、料理好きなのは、大橋には負けていない。
いや、江戸調理人組合の調理師免許を持っていただけに、プライドが許さなかったのである。

(いつかは、おれが調理長の座を奪ってやる・・・)
密かに、機会を伺う松五郎であった。
怒涛丸は、やっと出航したばかりだと云うのに、もう暗雲が立ち込め始めているようだ。
乗組員の洗濯は、もっぱらお欄とお順がやってくれていた。
言うのを忘れていたが、お順も呂宋に一時帰国したいと言うので、神事屋が許可をしていたのだ。

萬久は、自分の嫁に子供が生まれたばかりなので、この航海に参加するのは消極的だったが、主人(あるじ)の神事屋が行くと言うので、従わざるを得なかった。
だから、出港後も子供の事が気になるのか、ため息ばかりをついている毎日だ。
良庵は、悠々自適、何処に居ようが、風の如くふわふわと、ゆったりしている。
水野晴郎ばりの笑顔で、人々に明るさを振りまいていた。

一応平穏無事に見える怒涛丸の船内ではあるが、一歩間違えば、嵐が吹くに違いなかった。
その嵐は、松五郎であり、弁当夫婦であり、馬造とお欄であるかも知れない。
外部からは、復讐に燃えた三河屋だっている。
そんな中、一人幸せな思いに耽っていたのは、艦長の鴨野であった。
何しろ、指名子のお順が一緒に乗船しているのだ。

落ち着けと言っても、無理であろう。
神事屋など、みんなの手前もあるから、思いに耽るだけにしているが、還暦を過ぎた鴨野とて、男であることには違いはない。
洗濯物を頼む時にや、食事の時に給仕をしてくれるお順を見る時などは、年甲斐もなく、どぎまぎしてしまうのだから仕方がなかった。

『葱屋』に飲みに出掛けていた頃は、夜であったし、あまり飲めないながら少しでも酒が入っていたので、恥ずかしさは感じずに済んだが、こう朝から夜まで狭い船内で顔を見ていると、そうもいかない。
はっきり言って、目のやりどころに困るのだ。
根が純情だからやむを得ないが、お順の方でも、満更でない笑顔を鴨野に送るので余計であった。
この恋が成就するのかどうかは、作者でさえ知り得ないが・・・

航海は順調で、僅か3日目で瀬戸内海を通りすぎようとしている。
気の緩みが出たのであろう。
滅多なことでは酒は飲むまいと、皆で誓い合っていたのだが、大橋がそれを守れるはずはなかった。
『こんなに海は凪(なぎ)だし、今晩くれえ酒を飲んでもええだべなよ~、とろ吉い?』
『へえ大虎の兄貴、じゃあ、少し馬造に言って、酒を調達してくるように言いやしょうか?』


続く・・・・・


新着記事:『えっ、神事屋が馬造を虐待!?』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100122-00000002-maip-soci

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幕末ピンパブ物語 呂宋編 第一回 [フィクション]

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうううううううううううううう!』
馬造が、雄叫びを上げた。
いよいよ、呂宋国に向けて船出の日がきたのだ。
開港されたばかりの横浜港から、神事屋の持ち船である『怒涛丸』に、皆が乗り込んでいる。
鴨野艦長が、出港の指揮を執っていた。

本当は、蒸気船と洒落込みたかったのではあるが、石炭など費用が余計に嵩むため、昔ながらの千石船での航行ということになった。
幕府は、鎖国政策の施行と同時に、千石以上の大型船の建造を禁じた。
西国諸藩が大型船を率いて、幕府を襲ってくるのを恐れたのだ。
余談はいい。

ともあれ、一行は港を離れるべく、帆を上げた。
船は順調に滑り出したが、港の脇に建っている西洋レストランの影で、それを見送っている、一人の男の姿があったのを見逃してはならない。
紛れもない、三河屋その人である。
彼の顔は、復讐の念で満ちていた。

(ういひひひひ、今に見ておれよ・・・・・)
三河屋は、そう思いながらほくそ笑む。
そんな三河屋の思いも知る由もない一行は、出発することの喜びに浸りきっていたのだ。
『よ~そろ~』
そう大声で叫びながら、鴨野が取舵を取った。

ようそろとは航海用語で、船を直進させることを意味する操舵号令である。
当然その号令は、艦長である鴨野が発するものだ。
ちなみに、主な乗組員の役職を紹介しておこう。
鴨野艦長の下(もと)、大橋は、副艦長兼料理長、とろ吉は副料理長で、神事屋と萬久が機関長及び副機関長、料理見習いにこう平弁当夫婦、馬造はコメント不足によるペナルティで下働きだ。

良庵先生は、別格である。
阿蘭陀先生と異名をとる良庵は、乗組員全員の健康を守るために特別に乗船した。
金さんの要請もあったのもさることながら、命を落すかも知れないこの捜索隊に、自ら志願して、乗り込んでくれたのであった。
医は仁術とは言うが、欲とはかけ離れた、高潔な意志の持ち主ではある。

・・・とは口実で、本音は『葱屋』で知り合った呂宋娘の魅力に取り憑かれ、こうなれば、本場のローカル娘に会ってみたいというのが、本音かも知れない。(爆)
あっ、一人忘れていた。
居酒屋の亭主で、隠密の松五郎である。
奴も今後、重大な任務を帯びることになろう。

彼らの出航を見送った三河屋には、したたかな思惑があった。
どうせ、行く先は分かっている。
せこい神事屋とは違い、金は必要なときには惜しげも無く使う三河屋である。
汽船を一隻、チャーターした。
乗組員込で、呂宋まで500両である。

しかし、台湾経由なので、少々時間は掛かるが、帆船よりかはましであろう。
お供は、下働きに化けた甲賀忍びの菩薩だけである。
大人数は目立つからだが、いざとなったら金にあかせて、随時人を雇う気でいた。
鴨野達に遅れること10日後、彼らも日本を後にすることになっている。
今後の運命や如何に・・・


続く・・・


幕末ピンパブ物語 第二十三回 [フィクション]

『許してくだされ、許してくだされ』
馬造は、金さんの周りを、念仏踊りを踊るように拝みながら回った。
あまりにしつこいので、金さんも呆れてこう言った。
『ええい、今度だけは許してやる、次回からは必ずコメを入れるのだぞ、皆の者も分かったな!?』
『へへえ~』

一同、承服して平伏した。
こう平と弁当の夫婦も行くことを承知したし、良庵も、医師として同行することになった。
居酒屋の亭主松五郎も、金さんの代理で参加である。
費用は、神事屋と鴨野がその多くを負わなければならない。
金さんも、これでほっとしたのであろう。

老中に報告してくるからと、その居酒屋を後にした。
金さんがいなくなると、皆で話し合いあが始まった。
問題は、誰がこの集団のボスになるかである。
それぞれが、勝手なことをことをやっていたのでは、収集が付かないのは当たり前だ。
年の功と身分から、鴨野が選出されたのは言うまでもない。

こうして、大呂宋国黄金探偵団は、結成されたのであった。
事は急がなくてはならない。
鴨野は早々に隠居届けを、大橋は南町奉行に、休暇願いを出しに行かなくてはならない。
この点、こう平と弁当夫婦、馬造やとろ吉は気楽なものである。
今となっては、どうせ三河屋には戻れない。

こうなったら、財宝探しでもやって、少しでも分け前に預かった方がましである。
彼らは、気楽に考えていた。
しかしである。
まだ彼ら一行には、恐ろしい敵が控えていることを、知るよしもなかった。
それは、三河屋である。

三河屋が大橋に殴られて気を失った後、金さんが、大橋ととろ吉を連れ出したまでは書いた。
ところが、その跡をつけていた男がいたのだ。
三河屋が可愛がっている甲賀者だが、回船問屋の傍ら抜荷もやっている三河屋なので、非常の折には、大変役に立つ男ということで雇っていたのだ。
本名はなく、異名を菩薩(ボディ)と言う。

菩薩とはサンスクリット語だが、甲賀時代に、忍びの師匠がつけて呉れたらしい。
菩薩のような顔立ちをしているので、忍びだとは誰にも思われないだろうからと、そう名付けられた。
金さんにまでつけられているのを気付かれなかった位だから、忍びの腕は相当だったと言っていい。
菩薩は、普段は店の下働きとして働いているので、本当に目立たない存在なのである。
そんな男につけられた上、居酒屋での事の顛末を、全て聞かれてしまっていたとはお粗末な話だ。

菩薩は自分の店まで帰ると、気絶から覚めた三河屋に、全てを報告してしまった。
三河屋が激怒したのは、言うまでもない。
反面、狂喜もした。
こうなれば、奴らの鼻を開かして、黄金を奪いとってやるしかない。
この日から、彼は復讐の鬼となった。

特に彼を裏切った、大橋、とろ吉、こう平、弁当には、憎んでも憎み切れない程である。
そうとも知らぬ一行は、呂宋に出発する日を夢見て、準備を着々と進めている。
鴨野には隠居願いが、大橋にも休暇届けが、何とか無事に受理された。
後の金策は、神事屋が殆ど一手に引き受けた。
そうしていよいよ一行が、呂宋に旅立つ日を迎えたのである!


『呂宋編』に続く・・・

幕末ピンパブ物語 第二十二回 [フィクション]

金さんの話は、佳境に入ってきた。
首領の男は、スペイン提督軍と戦って敗れたが、少数の部下と一緒に、命からがらに逃れた。
スペイン総督は、その財宝のことも聞いていたので後を追ったが、見つけることは出来なかった。
その後、その男達がどうなったかは、定かではない。
マニラを離れて、山奥にでも姿を隠したというのが、スペイン提督軍の見解である。

そのままになっていれば、この話が後世に伝えられることはなく、徳川幕府の知ることにはならなかったであろうが、如何せん、記録が残ってしまった。
しかも、スペイン側にである。
当時のスペイン提督は、ラスカル.デラクルーズという名前であった。
実は、彼が財宝のことを、日記を残していたのだ。

その日記も、提督が退任したときに本国に持ち帰られ、彼の死後、誰の目にも触れられず、家の倉庫に埋もれたままになってしまった。
数代後に在呂宋提督になった、彼の子孫であるオスカル.デラクルーズが偶然それを見つけ、探そうと試みたが情報が乏しく叶えられなかった。
この為彼は、開国したばかりの徳川幕府に、調査を依頼したのである。

依頼を受けた当の幕府は、長い間の鎖国政策が敷かれていたので、呂宋国には疎かった。
話は頓挫しかけたが、今回の事件が勃発したばっかりに、却って道は開けたと言える。
金さんは、馬造の話を聞いて、『うむこれだ』と、ハタと膝を打った。
馬造とお欄の供述から、神事屋が呂宋国と密貿易をしているのが判明した。
しかも、大胆にも呂宋娘を連れてきて、呂宋茶屋なるものを開いている。

財宝の在処(ありか)を探るには、呂宋国に通じた彼らが適任であろう。
そう思い、自ら神事屋に赴き、鴨野や又場まで招いて、この話を聞かせたのである。
馬造とお欄が拐かされた話には、正直驚いた鴨野達だが、呂宋行きの話には乗り気になった。
居酒屋で、皆を集めて話をしようと、こうなったわけである。
そうなると、やばい問題が持ち上がった。

三河屋のことである。
彼のことを立件してしまうと、皆の罪も問わねばならない。
いい塩梅に、大橋の一発で、三河屋は気を失ってしまった。
その隙に、大橋ととろ吉も誘い出せたのだが、こうなったら呉越同舟、みんなで助け合いながら、呂宋に行って欲しいというのが金さんの本音である。

『但しなあ、費用が出ねえんだ、幕府の財政は、もう情けねえくらい疲弊しちまってさあ、だからよう、今回のことは、おいらが頭を下げてお願えしてるんだ!』
金さんは、そう言うと深々と頭を下げた。
要するに、幕府には金がない。
皆の罪は問わないかわりに、呂宋に行って、スペイン提督に協力して欲しいと言う話である。

既に、スペイン提督とは、分け前の分配率の話はついている。
後は、実行に移すだけであった。
『あたしは、やりますぜ!』
神事屋は、真っ先に手を上げた。
『拙者も、参加致す!』

大橋も、そう言った。
『私は・・・・・』
鴨野が、苦渋の顔をして喋り始めた。
『う~ん、主持ちの身で御座れば、異国の地へ旅などとは、如何せん・・・』
そこまで言うと、がっかりした表情でうなだれた。

『鴨野殿、それならば隠居されたら如何ですか?、家督を息子さんに譲っては?』
良庵が、そう言った。
『おお、そう言う手があったか!?』
鴨野の表情が、一遍に明るくなった。
『私も行きます、お欄を連れて・・・』

馬造が、どさくさに紛れてそう言った。
そうすると、金さんがそれを遮ってこう言った。
『お前は留守番じゃ、主人公のくせに滅多にコメントを入れないからと、作者が怒っておる!』
『え~、お奉行様~、作者様~、お願いだから連れてって下さいよ~』
馬造は顔をくしゃくしゃにして、泣きべそをかきながら、そう叫んだ。


あはははははは、続きやがれ・・・!(爆)

幕末ピンパブ物語 第二十一回 [フィクション]

『うおう、旦那様~』
馬造が、悲鳴を上げた。
『お、おう、うっ馬造ではないか、無事じゃったのか?』
鴨野が馬造に近づいて、その肩を手でがっしりと抱いてやった。
馬造は、その場に平伏して、頭を地にこすりつけながら謝り続けている。

お欄は、神事屋と萬久の姿を見ると、逃げ出そうとしたが、何処にも逃げる場所が無かったので、その場にへたへたと座り込んだ。
『お欄、逃げる必要などないんじゃよ!』
神事屋が、そう言った。
『これも皆、そこに居られる北町奉行の遠山様のお計らいなのじゃ、安心せい。』

鴨野もそう言って金さんに一礼し、馬造にも頭を上げるよう諭した。
金さんが、奉行の遠山様だったと聞いて、馬造は、魂が吹き飛ぶほど驚いた。
しかし、オールスター大運動会ではあるまいに、出演者がほぼ一同に集うなどあり得ないだろう。
大橋ととろ吉、こう平弁当夫婦には、さっぱりと分からない。
いや作者ですら、これは理解が出来なかった。

これは、金さんから説明してして貰うしかあるまい。
満場からの拍手に迎えられながら、金さんが居酒屋のお立ち台に立った。
おもむろにマイクを持つと、こう述べ始めたのである。
『え~、只今ご紹介に預かりました、江戸の庶民の味方、全てはお見通しの、お節介焼きのでえく(大工)の金公こと、遊び人の金さん、又の名を遠山左衛門尉景元と申しやす。』

金さんの演説は流暢だ。
『え~、皆様にお集まり頂いたのは、他でも御座いやせん、本日はお日柄も良く、天気晴朗なれど波高し、新郎新婦のお二人を始め、御両家の皆様には、謹んでお喜びを・・・』
『金さん、金さん!』
大橋が、慌てて止めた。

『それ、違いますよ・・』
『おっといけねえ、挨拶を間違えちまったぜ、勘弁してくんな。』
金さんは、頭を掻いたが、大橋は金玉を掻いた。
一同、どっと笑う。
冗談はさて置き、金さんの説明とはこうである。

馬造の供述の通り、全てを調べ上げた金さんは、三河屋が、裏の稼業、占い師古希麻呂と同一人物であることも突き止めたし、三河屋の寮のことや、協力者の大橋虎造のことも調べ上げた。
勿論、お欄の働き場所であった神事屋のことや、密貿易のことなども調査の段階で分かった。
しかし、今回は罪に問う気は無いと言う。
それには、理由があったのだ。

問題は、幕府の財政にある。
幕末、幕府の財政は殆ど危機的状態になっていた。
相次ぐ飢饉で、米の収入がない上、諸大名の台頭で、経済が中央より地方に流れる傾向にあった。
それに対し、幕府の御家人は、旗本八万騎と称されるように、多くの家臣達を養っている。
このままいけば、幕府は早晩、破産してしまうのは間違いない。

危機感を抱いた、時の老中阿部伊勢守正弘は、そのことを遠山左衛門尉景元に相談した。
阿部には、目算があった。
豊臣秀吉が呂宋島と交易していた頃の話、高名な呂宋の壺を大量に収集していた秀吉は、大船団を組み、大量の金貨を船に積んで、堺の港を出港させた。
船団が、正にマニラに着こうとした時、その悲劇は起こったのである。

秀吉のキリシタン追放令で、マニラに逃げ渡った、大名の家来や商人、農民たちが一体となって結成した軍団に、襲われてしまった。
その額、天正大判小判で、総額百万両以上と言われている。
その金は、その時に首領であった人物の所に隠されていたが、彼の軍団も、当時マニラを支配していたスペイン人提督と争って破れ、その金が、そのまま行方不明になってしまっていたと言うのだ。


続く・・・・

幕末ピンパブ物語 第二十回 [フィクション]

金さんの後ろをついて行きながら、大橋は疑問に思っていた。
(何故一人で来たのだろう、捕り方も連れずに・・、それに気を失った三河屋にも手を付けなかったな)
考えれば考えるほど、不思議であったのだ。
(何か、深え考えがあるに違いねえ、北のお奉行様のことだ、ひょっとすると、命拾いかな?)
しかし、こうなったら考えても仕方が無いことなので、後は天に任せるしか無い。

大橋は、そう思うと気楽になり、仕舞には口笛まで吹きながら歩いて、金さんを苦笑させている。
とろ吉も、大好きな虎造兄貴が嬉しそうなのを見て、少し緊張がほぐれつつあった。
『おいおい、大橋よう、おいらまだ何の詮議でおめえさん達を引っ張り出すのか、言ってねえんだぜ、いいのかい、そんなに浮かれちまってさ?』
思わず、金さんは大橋に声を掛けてしまった。

『いいえね金さん、いや御奉行様、手前に取りましては、あの高名な遠山様と同道出来るなんざあ、これから死んでもあるこっちゃねえと思っていますんで・・・』
『ほほう。それで?』
『いえね、手前ももう観念致しました、この際、洗い浚い全部ぶちまけますから、どうぞ、すぱっと裁いてやって下さいまし・・・。』

『いや、見事な覚悟じゃねえか大橋の、今の言葉を忘れるな、今からおいらが贔屓にしている居酒屋に来な、面白い話を聞かせてやるから・・・』
『ははっ、ありがてえ、居酒屋で面白い話たあヨダレが出るぜ!』
大橋は、裁かれて死ぬかも知れないというのに、奇妙に喜んでいる。
とろ吉は、その光景を目を白黒させながら、眺めていた。

(相変わらず、何やら理解の出来ねえ兄貴だが、さすがに気っ風だけはいいや。)
そうとろ吉が思いながら、しばらく歩いている内に、例の居酒屋に着いた。
驚いたのは、中で働いていた馬造とお欄である。
何と金さんが、大橋ととろ吉を伴ってきたからだ。
大橋は、木戸番に捕まった時に一緒にいた人物だし、とろ吉は、馬造を監禁した上、埋めた男だ。

そこに、こう平と弁当まで、松五郎に連れられてきたから大変だ。
『うわあ・・』とか『うへえ~』とか言う叫び声で、居酒屋中が大騒動である。
さらに、そこに籠屋が続々到着し、中から鴨野と神事屋、萬久主従、更に又場良庵まで出てきたのには、金さん以外の出演者は勿論、作者でさえ驚いた。
どう収集をつける積りなのか、得体の知れない作者ではある。


日曜版なので短いが、月曜日に続く・・・(爆)

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